冒険道具屋パレットとステキなトレジャーストーリー

『空の色は』

参考文章量【長め:約7600字】

dot2025_0221_1901_50

薄暗い空間のなか、鈍く光る南京錠。
その鍵穴には工具の先が差し込まれている。
「……くそうっ!こんなの簡単に開けられるはずなのに!」
苛立ちを抑えられずに声を荒げる。
「……ああもうっ!……早く、早く開いておくれよっ!」
焦りに任せてガチャガチャと乱暴に工具を動かす。
しかし急げば急ぐほど思うようにいかない。
「早くしないと……!」
自分の未熟さを呪うが、今はそんな時間さえない。
早く、早く、もっと急がなければ。
「早くしないと……あの人が死んでしまうっ……!」

…………………………………………………………………………

…………………………………………

冷たい風が吹いている。
森の雪道、旅人が一人歩いていた。
外套を纏い金剛杖をつきながら、ゆっくりと歩を進めている。
額には冒険者らしいゴーグル、背には旅道具の詰まった荷物を背負っている。

ふいに声をかけられた、子供の声だ。
「ねえ待って、落とし物だよ」
振り向くと、男の子がこちらを見ていた。
ぶかぶかな鉄の帽子が印象的な少年だった。

彼の手には古びた万年筆、確かに旅人の物だった。
旅人は白髪頭を掻きながら受け取る。
「おや、気づかなかったよ。ありがとう」
鞄を下ろし、落とし物を丁寧にしまいなおすと少年に尋ねた。
「こんな雪道で子ども一人か?親御さんは?」
周囲に大人の姿は見えない。
「お父さんとキャンプに来てるんだ。いま近くの川に水を汲みに行ってるよ」
ニコニコと屈託のない笑顔で答える。

「それよりおじさん、もしかしてコレもおじさんの落とし物かな?」
なにやら小さな物を差し出してきた。
顔を近づけて観察すると、小さな果実のようだ。
「いやコレは違うな。何かの実のようだが……」

「……これはね、白煙樹の実だよ」
少年がその実を握り潰すと同時に視界が奪われた。
瞬く間に辺り一面を覆いつくす白煙。

「……っ!?」
瞬間的に広がった煙を慌てて振り払う。
ほんの一瞬の出来事であったが、目の前から彼の荷物と、鉄帽子の少年が姿を消していた。

………………………………………
……………………………

旅人と出会った山道から離れた茂みの中。
「ナイフにランプ、地図、そして羅針盤……お、これは獣肉の燻製か。上々だなあ」
少年は身を隠しながら戦利品を並べていた。

「……なんだこれ、宝石箱?」
鞄から出てきたのは金属製の小さな箱だった。
複雑な装飾が施され、箱自体も高価な物のようだ。
「……っ、なんだ開かないや」
やや尖った耳を指で掻きながら不満そうに眺める。
箱には小さな鍵穴、施錠され固く閉ざされている。

少年が鞄を乱暴にひっくり返すと小さな鍵が転がり出てきた。
「…………?」
しかし少年は、鍵を使い箱を開けることをせずに、箱を降ったり装飾を眺め、首を傾げた。
しばらく箱をいじっていると、装飾の一部が取り外せることに気付いた。
装飾を取り外すと、その裏からもう一つの鍵穴が現れた。

「手の込んだ罠……うかつに開けたら一体どんな目にあうのやら」
少年は二つ目の鍵穴に鍵を差し込み、小箱の解錠に成功したのだった。

「勘が良いな少年。だが残念、箱の中身は空っぽだ」
先ほどの旅人の声。いつの間にか背後をとられている。
「………っ!」
少年は振り向くことも出来ずに硬直する。

「俺の鞄から万年筆をくすねる手並み、そして逃げ足も見事なもんだ。俺としたことが一瞬マジで見失っちまった」
穏やかな口調ではあったが、抵抗を許さない威圧感
があった。
「……こっちこそ、こんなこと初めてだよ。こんな簡単に追いつかれた上に背後を取られるなんてね」
少年は観念した様子で両手を広げ振り返る。
背後の旅人は金剛杖を構え、少年を見下ろしていた。

「両手を見せて油断を誘い、死角でさっきの実を踏み潰すって魂胆か。そいつは試さん方が身のためだぞ」
少年の目論見をあっさり看破してしまった。
そして更に続ける。
「それと、腰に仕込んだ短剣も出してもらおうか」

少年は今度こそ観念した様子で小さな溜め息をついた。
「すごいね、おじさん。……一体何者?有名な狩人?」

「いいや。俺はな、冒険道具屋だ」

………………………………………
…………………………

「聞いたこともないよ、そんな職業」
帽子の少年は手足を縛られ拘束されていた。
唇を噛みしめ、旅人の背中をじっと睨む。
こうして捕まったのは初めてのことだった。

物心ついた時、すでに彼は森でひとりだった。
人間の子ども。それは自然の摂理のなかでは本来淘汰されてしまうであろう弱々しい生き物。
しかし森の動物達は彼を拾い育て、自然の中で生き抜くために必要な力を授けた。人並み外れた敏捷性と野生の勘である。
そうして培われた才覚は、人間の暮らしにおいてはともかく、盗賊として一流の技能であった。

食糧の得にくい冬季には旅人の荷物を狙ったり、近隣の街の食料庫に忍び込んだりもした。
人に危害を加えたことはないが、街人に引き渡されれば投獄は免れないだろう。

「まあ、つまり冒険する道具屋だ。トレジャーハンターと言い換えてもいい」
旅人は火を焚き、野宿の用意をしながら答える。
「各地を冒険して入手した宝物を売ったり、立ち寄った街の困り事を解決したりもする」
例えばお前のような悪ガキを懲らしめたりな、と意地悪く笑いかける。

「ふん、いい大人が冒険家?しかも僕のような子供を捕まえてヒーロー気取りとはね」
拘束されながらも生意気な物言いで返す。
旅人は気にする様子もなく、鞄から燻製肉を取り出し少年に差し出した。
「そうだ、俺のようなジジイも夢中になれるのが冒険家だ」
力強く続ける。
「見たことのない景色、見たこともないお宝。たったの1日だって同じ日はない、毎日がワクワクだ!お前さんも盗賊なんぞ辞めて、今すぐ冒険家になりゃあ良い!」
目を輝かせ熱弁する。

「ウマいなあコレ、激しくウマい。激ウマの燻製肉だ」
ところが少年は話を聞いていない。両手を括られたまま、器用に燻製を齧っている。
旅人は小さく溜め息をつくと、少年が食べ終わるのを待つことにした。

「お前もついてこないか、俺の冒険に。森を出て広い世界に飛び出すんだ。俺が一人前の冒険者に仕上げてやる」
まだ指をなめている少年にむかい、旅人は改めて言う。
「嫌だね、行かないよ」
少年は冷ややかに即答した。
「そんなワケわからない職業、僕は森でしか生きられないんだ。……気に入らなけりゃ監獄送りでも好きにすればいいさ。そのうち釈放されたら森に帰って同じ暮らしに戻るだけだよ」
子供らしからぬ荒んだ目、じっと焚き火を見つめている。

「冒険者は良いぞ、夢がある。行き先は空の色でも見て決めるのさ」
なおも語る旅人、
「ふん、空に色なんか無いよ。夢なんてモノじゃ空腹は満たされない」少年は突き放すように言い放つ。
厳しい自然でのサバイバル生活は、少年を極端な現実主義者にしてしまっていたようだ。

「好奇心は誰にだってある、男の子なら尚更な。お前さんも宝箱を前にしてワクワクしただろう、胸が踊ったはずだ。そうだろう?」
鞄から古びた地図を取り出し広げる。
「見ろよ、これは宝の地図だ。直ぐ近くだぞ、今度
こそ本物の宝箱を開けに行こうじゃないか」

少年は返事もせず横になると、そのまま眠り始めてしまった。
旅人は寂しげに溜め息をつき、少年に毛布をかけると自らも横になるのだった。

…………………………………………………

………………………………

朝になると、少年は姿を消していた。
自力で縄を抜けて逃げたらしい。
「……驚いたな。あいつそんなことも出来るのか」
旅人は白髪頭を掻きながら呟くと、所持品を確認した。
荷物からは獣肉の燻製とランプ、そして宝の地図が失われていた。

……………………………………………

………………………………

少年はランプを片手に洞窟を歩いていた。
「この森に、こんな所があったなんて……」
幾重にも罠が張り巡らされ、複雑に入り組んだ道を立ち止まることもなく進んでいく。
道中には幾つもの分かれ道があり、正しい道を示す暗号や謎解きも用意されていたが、彼は目もくれずに突き進む。彼はまともに文字を読めなかった。
ひたすらに勘だけを頼りに行くしかなかったが、行き詰まることもなく最深部にたどり着いてしまった。

広い空間、その中心に宝箱が一つ置かれている。
美しい装飾、蓋には容易く開けられそうな南京錠がかけられている。
これは……あまりにも、怪しい。

少年は宝箱に向き合いながらも手を伸ばせずにいた。しかし諦めることも出来なかった。
この箱の中には確かに何か宝物が入っている。彼の人並み外れた野生の勘は、そう確信すると同時にハッキリと「危険、今すぐ逃げろ」と警告している。

(お前も宝箱を前にしてワクワクしただろう)
……あの旅人の言葉は図星だった。
小箱の解錠に成功したときには高揚感に包まれ、空箱だと知った時にはガッカリしたのだ。
森での暮らしの中では芽生えなかった感情だった。
今度こそ……今度こそ宝物を手にしたい。
少年は意を決して宝箱に手を伸ばすことにした。

しかし、それは叶わなかった。
「………………あれ?」
思うように両腕が動かないのだ。
いや、腕どころか上半身を動かすことができない。
見えない何かに拘束されている。

「……な、何なんだ!?」
次第に拘束は強くなりギリギリと身体を締めつける。
「…………うわああああっ!……い、痛いっ!」
遂には身体が宙に浮き上がってしまった。
拘束する力は際限なく強くなり、骨まで軋み始めた。もはや呼吸もままならない。
どうやら見えない何者かに身体を掴まれ、猛烈な力で締め上げられているらしい。逃げられない。

(だめだ全然動けない…………し、死んでしまう……)
薄れ行く意識の中、少年は後悔していた。
やはりこんな所に来るべきではなかった。
あのまま逃げ出してしまえばよかった。住み慣れた森の暮らしに戻るべきだったのだ。
何となく湧きあがった好奇心に身を任せてしまったばかりに、わけのわからないまま終わってしまう。
結局、宝箱を開けることも出来なかった。
「…………いや………だ…………」
意味もなく拒絶の言葉を呟き、目を閉じた。

「そうだ、イヤだと言ってやれ。簡単に諦めてやる事はない。冒険者の心得その一だ」

聞こえると同時に拘束が解かれ、身体が地面に落下した。
「無事か、少年」
白髪の旅人が金剛杖を構えている。彼が見えない何者かを突き飛ばしたのだろう。
「おじさん……また追いつかれた。しつこいなあ」
よろけながらも立ち上がるなり悪態をつく少年。

「なんだ、まだ余裕ありそうじゃないか。あれはおそらくインビジブルベア、実体はあるが姿が見えない獣だ。冬眠できなかった個体は特に獰猛、その危険性はトロール級だと言われている」
視線の先には薄暗い空間と岩壁があるばかり、生き物の気配は全く感じられない。

「……さっきので倒しちゃったんじゃない?」
「いいや、近くで俺達の様子を窺っているはずだ。悪いことは言わん、宝箱は諦めて先に逃げろ」
不安そうな少年を背後に庇いながら撤退を促す。
見えない猛獣を相手にしながら彼を守りきれる自信はない。

「イヤだ、あの箱を開けるまで逃げない。……あれは僕のモノだ」
想定外の返事だった。つい先程まで生命の危機に瀕していたというのに、彼は逃げようとしない。
怯えながらも鉄帽を被りなおし短剣を握りしめている。

思わぬ少年の言動、一瞬だけ気を取られてしまった。
そして隙ができた。

ドスン、と低い音が鳴り響く。同時に視界が反転した。
腹部に鈍痛、旅人の身体が宙に投げ出されている。
おそらく、熊の突進を受けてしまったのだろう。
少年が何やら叫んでいるが聞き取れない。

着地と同時に素早く体勢を立て直す。
直ぐに追撃が来るはずだ。
金剛杖を構え、正面の広範囲を狙って薙ぎ払う。
手応えは無い、やはり当たらない。
そして、空を切るだけの大振りは再び隙を作ってしまった。

ザクリ、今度は耳障りな音がした。
鋭い痛みと共に左膝に裂傷が走っている、爪による攻撃だろうか。
左側、即座に武器を振るう。微かな衝撃が返ってきたが、しかし有効打にはなっていない。
そのまま闇雲に空振りを繰り返す。しかし、これは苦し紛れの牽制にすぎない。
少しでも手を止めれば次々と攻撃を受けてしまうだろう。

旅人の経験によると、見えざる敵と戦うには幾つかのセオリーがある。
今の状況だと、来た道を引き返して狭い通路に誘い込むのが定石だろう。広い空間では勝機は薄い。まずは攻撃の来る方向を制限する必要がある。

しかし今はそれが出来ない。
視界の端では鉄帽子の少年が必死に宝箱を開けようとしている。かなり手こずっているようだ。
あの種の錠は見た目より難易度が高い場合がある。彼では解錠に時間を要するだろう。
いま旅人が通路まで後退しても、おそらく熊は追って来ない。そして標的を少年に移してしまう可能性が高い。

だから……このまま戦い続けるしかない。
たとえ偶然でも、とにかく攻撃を当てるしかない。
そして少しでも熊が怯んだ隙に、強引に少年を抱えて撤退するのだ。

足音も気配も、空気の動きさえ感じられない。
姿の見えない相手には余裕がある、そして狡猾だ。
息を潜めて待っているのだろう、旅人が疲れる時を。
そして現実に体力の限界が近付いて来ている。いつまでも武器を振り回す速度を維持できない。

不意に生暖かい風が頬を撫でた。
たしかに近くにいる、間もなく決定的な攻撃が来る。

「おじさん伏せてっ!」
反射的に身を屈めると頭上の空気が動いた。
……躱せた。少年の助言だ。

「右後ろにいるっ!」
今度は正確な位置を告げられる。
何故分かった、と疑問を口にする余裕は無い。
やるしかないのだ、声を頼りに攻撃を試みる。
すかさず右後方へ、振り返り様に金剛杖を振り下ろした。

会心の一撃、そう呼べる程の確かな手応えがあった。

「………なんだ!?」
振り向いた先には熊の姿があった。
薄暗い中でもハッキリと視認できる。
体長は2m程、思わぬ一撃を受けて狼狽しているようだ。
そして、何故かその巨体は鮮やかな山吹色に染め上げられていた。

状況が理解できず少年の方に視線を移す。
開け放たれた宝箱、その傍らに立つ彼の手には大きな絵筆が握られていた。
「なるほどね、無尽蔵に顔料が吹き出す魔法の絵筆。色を変えたいときは、こっちの調色板を使えば良いのかな」
満足そうに呟く少年。握りしめている筆先からは、今もボタボタと顔料が滴り続けている。

「……どうかな、少しは見やすくなった?」
飛び散った顔料が付着したままの顔を向けて尋ねてくる。
「俺にはゲージツというやつがイマイチ理解出来んのだがな。なかなか悪くない色づかいじゃないか」
旅人は再び武器を構え、山吹色の熊に視線を戻した。

……………………………………………

…………………………

周囲に撒き散らされた不思議な顔料は、ぼんやりと発光して洞窟内を照らしている。

「その便利な画材道具はお前さんが持つと良い。すっかり使いこなせている様だし、お子様の玩具には丁度良いじゃないか」
「貰っておくけど、ひとこと余計だよ」
二人は宝箱の中身を物色していた。
魔石、魂の水、水晶の首飾り………

その傍らでは、山吹色の強敵が目を回して横たわっている。
どうにか無事に寝かしつけてやることができた。
そっとしておけば、大人しく春まで冬眠していてくれるだろうか。

「それ以外は全て俺が預かる。今まで付近の街から失敬した食糧品の分は還元しないとな」
少年は反発することなく承諾、そして鉄帽子の中から薬草を一束取り出すと旅人に差し出した。
「……これ使って。その怪我は足手まといなワガママがいたせいだよ」
自分の身勝手な行動が、自分だけでなく他人まで危険に晒してしまった。彼なりに思うところがあったようだ。

「少年、お前さんは……」
言いかけて止まった。少年も目を丸くして固まっている。
奥の岩壁が動いたように見えたからだ。どうやら気のせいではなかったらしい。
発光顔料で染まった岩壁は、ゆっくりと起き上がりこちらを向いた。
……いや、あれは熊だ。巨大すぎて生き物だと認識できなかった。
隣で眠っている熊の3倍はあるだろうか。

「おいおい……あいつ子熊だったのかよ」
「えっと……おじさん、勝てそう?」
少年は引きつった表情のまま尋ねる。
この質問に対する回答は既に悟っているようだ。

「少年……冒険者の心得、そのニを教えてやろうか」
「ううん、だいたい察しはついてるよ。……当てて見せようか?」
少年は鉄帽子から白煙樹の実を取り出すと、見事に言い当てたのだった。
「用が済んだら、さっさと逃げる。だよね」

………………………………………………………

…………………………………

「……ここまで来れば大丈夫かな」
「まったく、お前さんの逃げ足は大したもんだ」
洞窟を抜けて、逃げきることに成功したようだ。

「さて………」
旅人は改めて少年の方に向き直り、問いかける。
「……なあ少年、これからどうするつもりだ?」
「…………………………」
彼は、今度は即答しなかった。
やや尖った耳を指で掻きながら黙っている。
「もうお前さんは盗賊の目をしていない。未熟ではあるが立派な冒険者だ。もう湧き出てくる好奇心を止めることなど出来ない」
そう一方的に断言し、続ける。
「もう一度だけ言う、今すぐ決めてくれ。……森を出て俺の冒険についてくるんだ」

「僕は…………」
真っ直ぐに旅人の目をみて、ハッキリと回答した。

「僕は、あなたの冒険にはついていかない」

「…………………そうか」
旅人はそれ以上は何も言わなかった。

少年の方も、それだけを告げると旅人の脇をすり抜けて駆け出していってしまった。
しかし、すれ違い様に一言だけ付け加えた。
「……おじさんが“僕の冒険”についてくるんだ!」

残された旅人は言葉の意味を捉えられずにいた。
立ち尽くして白髪頭を掻いていると、あることに気付いた。
いつの間にか額のゴーグルが失われている。

「………やれやれ、空の色を塗り替えられちまった」
少年の走り去った先を見て一言呟くと、
「待ちやがれ悪ガキ!俺のゴーグルをかえせっ!」

急いで彼の後を追うのだった。

……………………………………………………

……………………………………

ずいぶんと昔の夢を見ていたみたいだ。
久しぶりに宿のベッドで寝たからだろうか。

青年は尖った耳を指でいじりながら欠伸をすると、さっさと旅支度を整える。
鞄には獣肉の燻製、羅針盤、画材道具一式。そして額には、いかにも冒険者らしいゴーグル。

受付でチェックアウトを済ませると、店主が声をかけてくる。
「行商人さん、これからどちらまで?」
それに青年は愛想良く答える。
「冒険道具屋、僕を呼ぶならそう呼んでおくれよ。行き先はね、空の色でも見て……」
言いかけて、訂正した。

「いいや、誰も見たこともない色の空を探しに行くんだ。最高の冒険家さえも知らない空を。きっと見つけ出してみせるよ」
好奇心の光に溢れる彼の瞳には、どこまでも続く大空と新たな冒険が映し出されているようだった。

「いいね!」 1

第7話「空の色は」
今回の勝手にテーマ曲は、七色の少年(パスピエ)

コメディ映画とかでよくある、お年寄りと子供のコンビを書きたかった:exclamation:
あと、いぶし銀な一流冒険家を書きたかった:dash:
自分より賢いキャラクターは書けないのと同様に、経験値や状況判断も無理を悟ったのでした:sweat_drops:
このコンビは何かの回想とかで再登場させたいけど、天才キャラ的なものは永久に登場する事はございません:dash:たぶんね:sweat_drops:

『秘薬の材料』

参考文章量【短め:約2400字】

dot2025_0221_1902_11

美しい街並み。富裕層が多い地域なのだろうか。その中でも一際目立つ立派な屋敷があった。

その中に、富裕層とはかけ離れた風貌の青年が一人。薄汚れた服にボサボサの髪、冒険者のようだ。少しとがった耳を指でいじりながらメモを眺めている。

「わかったよ、コレを集めてくれば良いんだね?」
向かいに座る老人に声をかけた。
「さよう、究極の秘薬ナンプンヘマチョを作るのに必要なのじゃ」
屋敷の主、いかにも仙人といった風貌の老人が応える。
「報酬は調合した秘薬を一瓶、そなたに授けるものとする。採取には大きな危険が伴うじゃろう、心して行くがよい」
冒険者は自信に満ち溢れた瞳を輝かせ、力強く応えるのだった。
「大丈夫、冒険なら任せておきなよ!」

………………………………………

…………………………………

「ここがヒョモヌ川、たしか必要なのはフォヨーヨォヌ魚が3匹。ヘンな名前」
川辺に佇む冒険者が一人、メモを片手に川を眺めている。流れは然程早くないようだ。
「モンスターの気配もしないし、こりゃあ楽勝かな」

そんな時、近隣住民が声をかけてきた。
「坊主、フォヨーヨォヌ魚を釣りたいなら専用の釣り竿が必要だ。たったの5,000Gで譲ってやるぞ」
商人の集うMUTOYS島、珍しい話ではない。

しかし冒険者は相手にしない。
「釣り竿?いらないよ、ちっこい魚の3匹くらい。ちょっと潜って取ってくるから」
泳ぎに自信があるらしく、手荷物を置くと川に飛び込んでしまった。

「うわあああああっ!」
ところがすぐに冒険者の悲鳴が響きわたった。慌てふためき、必死にもがいている。
「なんだコレ!し、沈んでしまうっ!助けてえ〜っ!」

やっとの思いで岸まで戻ってきたが、その全身にはドロドロとした粘液がまとわりついていた。
「この川の水、すごいドロドロなんだ……。これじゃマトモに泳げっこないや」
「そうだろう、ヒョモヌ川の水は島一番の粘度だからな。中に入れば動けないし、並の疑似餌じゃ沈みもしない」
住民は再び釣り竿を取り出した。

「……わかったよ、買うよ。もうちょっと安くならない?」

冒険者はしかたなく、重い疑似餌の付いた専用釣り竿を購入したのだった。

…………………………………………

………………………

「次は、メヂュポニチ丘のポポチの実が1つ」
少しくたびれた様子の冒険者、今度は丘にやってきていた。
髪や衣服にはドロドロ粘液が取りきれず残っている。
上を見上げると、高い木の先に大きな実がついているのが見える。

またしても近隣住民が声をかけてくる。
「あら、ポポチの実が必要なら専用の長尺網が必須よ。8,000Gでどうかしら」

「なあに、あの程度の高さ、何てことはないよ。僕は山育ちで木登り得意だからね」
身軽な冒険者は得意げな様子でスルスルと木を登ってゆく。

「うわあああああっ!」
しかし冒険者は直ぐに落下してきてしまった。
「……なんだコレ、樹液がヌルヌルしてる!実も!すごく滑るっ!」
冒険者にはドロドロに加えてヌルヌルの樹液まで付着してしまった。

「ああもう……分かったよ。その網を売っておくれよ」
冒険者は渋々、代金を支払うのだった。

…………………………………………

……………………………

「ヌッチョリウス山のペチョチョダケを5つ!」
ドロドロでヌルヌルの冒険者、今度は山の中で最後の材料を探していた。

やはり近隣住民が声をかけてくる。
「兄ちゃん、ペチョチョダケの採取には専用の……」
「いらないってば!」

冒険者はピシャリと遮る。
「もうパターンは掴めたよ。ベトベトだろうがペチョペチョだろうが、地面に生えてるキノコなんて簡単さ!」
そう言うと、冒険者は颯爽と駆け出して行くのだった。

「うわあああああっ!」
しかし、間もなく冒険者は絶叫しながら逃げ戻ってきた。
頭にキノコをはやした巨大ゴリラの集団に追われている。
「何コレ聞いてないっ!何が要るの!?専用の何が要るの!?」

「話を聞かない兄ちゃん。ヌッチョリマウンテンゴリラを眠らせるゴリスヤァの花粉、16,000Gでどうだい?」

…………………………………………………

……………………………

美しい街並みの中の立派な屋敷。

「いてて……ひどい目にあったよ」
ドロドロでヌルヌルの頭に、大きなタンコブまで乗せた冒険者が戻ってきた。
「だいぶ経費がかさんだけど、ようやく材料が全部揃った」
仙人の待つ部屋に向かう。

すると先客が居ることに気がついた。
青い帽子に作業着の青年。何かの職人だろうか。
そして、その帽子や作業着は同じようにドロドロとヌルヌルにまみれている。
どうやら仙人は、他にも多くの人に秘薬の材料を依頼していたようだ。

「キミも材料を揃えてきたのかな?大変だったでしょ?」
彼の横に並び、入手した材料を納品する。

「うむ、よくぞ戻った。ちょうど秘薬を調合し終えたところじゃ。一瓶ずつ持ってゆくが良い」

二人は琥珀色の液体が入った小瓶を受け取る。
「この秘薬、ナンプンヘマチョだっけ?どんな効果があるの?」
冒険者は今更な疑問を口にする。

「ふむ……よろしい。二人共、それを自らの頭にかけてみるが良い」
「………????」
わけがわからないまま仙人の指示に従う二人。

すると、さっそく効果が現れた。二人の頭に付着したドロドロやヌルヌルが見事に溶け出しはじめるのだった。
「す、すごい効き目だ!」
「あんなにガンコだったドロドロがっ!」
大喜びで歓声をあげる二人。

……しかし、それ以上は何も起こらなかった。

「……って、ハアアアァっ!?あンだけ苦労して得た成果コレだけええぇっ!?」
怒りをあらわに絶叫する青帽子。
その横で冒険者は一言呟く。
「……微妙に取りきれて無いんだけど?」

「ふむ、ならば二瓶目は50,000Gじゃ」

……この街が裕福な理由が分かった気がした。
そして、……この立派な御屋敷も。

二人は顔を見合わせ小さくため息をつくと、声を揃えて叫ぶのだった。

「二度と来ないからなっ!こんな街っ!!」

第8話「秘薬の材料」
今回の勝手にテーマ曲は、じょいふる(いきものがかり)

これもドキュメンタリー:bulb:

ちなみに集めたアイテムはこんな感じ:bulb:
ヌッチョリウス山のペチョチョダケ:exclamation:
dot2023_0601_1954_14

ヒョモヌ川のフォヨーヨォヌ魚:exclamation:
dot2023_0601_1954_02

メヂュポニチ丘のポポチの実:exclamation:
dot2023_0601_1954_26

またまたガラクタガレットさんに挿絵と補足を頂いてしまった:bulb:
というか、ご本人(らしき人)も出演してもらっちゃった:dash:
いつも頼り切りでごめんなさい:sweat_drops:

ひとまず過去の振り返り編はここまで:bulb:
出し惜しみせず駆け足で突っ走ってしまった:exclamation:計画性なんてモノはダンジョンのどっかに忘れてきた:exclamation:
さあ、 次回は新作だ:sunny:

たぶん、そこから更新はピタッと止まるけど:sweat_drops:
いつでも読み返しに来れるし、まあ大目に見ておくれよ:seedling:

「いいね!」 1

『生命の灯火』

参考文章量【長め:約6100字】

dot2025_0224_0811_30

重く真っ黒な空、白い白い雪が静かに降りはじめた。
今夜は気温も低く風が冷たい、まもなく吹雪になりそうだ。朝までには大量に雪が積もるだろう。
うつむきながら道をゆく人々は皆、それぞれの帰る場所へ向かい先を急いでいる。

「あのう……マッチを買ってくれませんか……」
かぼそく小さな声、たやすく雑踏にかき消されてしまう。
路上でマッチを売り歩く、みすぼらしい少女になど気付きもしない。
やがて少女は諦めたように声を出すのをやめてしまった。

寒空の下、靴も履かずトボトボと歩く。
途方に暮れる少女の目には涙が浮かび始めている。
籠のマッチは朝から一箱も売れていない。
このまま帰ることは許されないのだ。

冷たい夜風は、小さな身体から容赦なく体温を奪っていく。
少女は弱々しい足取りで路地裏に避難し、うずくまってしまった。
寒さ、疲労、空腹、もはや限界だった。

「ごめんなさい……」
誰にとも無く呟く。このまま凍えてしまう前に、少しでも暖をとりたい。
商品のマッチを一本とりだし火をつけた。

「……まあっ!」
不思議な光景が目の前に広がっていた。
明るい部屋、暖かいストーブ、そして豪華な食事。
マッチに火が灯っている短い時間にだけ、望んだ物が映し出される幻影のようだ。
しかし火が消えてしまうと同時に、幸せな幻も消えてしまう。続けて2本、3本、マッチの燃えかすが増えていく。

そして少女は、亡くなってしまった祖母を思い浮かべマッチを擦った。
「優しかったおばあちゃん……もう一度会いたい……」
マッチの小さな火の先に、穏やかに微笑む祖母の姿が映し出された。
「お……おばあちゃん!」
涙をこぼし震える手を差し出す少女。

「ハックション!!」
マッチの火と同時に、おばあちゃんの幻影は一瞬でかき消えた。
「………………は?」

マッチ売りの少女が振り向いた先には、小柄な青年が座り込んでいた。
「すごく寒いよね、今日。凍っちゃいそうだよ」
薄よごれた服、くたびれたゴーグル。冒険者のようだ。何故か全身ずぶ濡れで震えている。
「あら、火ぃ消えちゃった?ごめんね?」
さほど悪びれた様子もなく、軽い謝罪の言葉をかけてきた。

「……おばあちゃん消えちゃったじゃない」
感動の再会を台無しにされたのだ、思わず不満が声に出る。
「あなたそこで何をしているの?何故そんなに水浸しなの?」
この生死の瀬戸際で、自分より可哀想な有り様の人に出会うとは思わなかった。卒直な疑問を投げかける。

冒険者は恥ずかしそうに指で耳を掻きながら答えた。
「冒険の途中……うっかりセイレーンを怒らせてしまってね。大波の魔法で流されたんだ」
そして懐から大きな財布を取り出すと、
「さっき向こうでマッチを売ってたよね?僕に一箱売っておくれよ」
マッチを買おうと追ってきてくれたらしい。
少女は機嫌を直し値段を告げる。
「え、マッチ買ってくれるの?一箱200Gなんだけど」
「あ、ごめん15Gしか持ってないや。……バラ売りってできるかな?」
「そんなんじゃ木の枝も買えないわよ!」

雪の降る極寒の中、全身びしょ濡れな上に貧乏人。そんな状況なのに、この男ときたらヘラヘラと笑っている。
さっきまで泣きながらマッチを擦っていた自分が馬鹿らしくなってきた。
「かわいそうだから一箱あげるけど、こんなのじゃ髪も服も乾かないよ?」
ため息をついてマッチを一箱さしだす。

冒険者は遠慮なくマッチを受け取ると、得意げに微笑む。
「大丈夫、薪と獣肉は持ってるんだ。良かったら一緒に食べよう」
少女は少し考えたが、ご馳走の幻影を見たあとで空腹に抗うことはできなかった。
「こんな雪の中で焚き火なんて出来るの?」
ブツブツ文句を言いながらも、ついていくことにしたのだった。

…………………………………

…………………

その少年は、今まさに力尽きようとしていた。
傍らには大型の老犬。運命を共にする意思を示すかのように、寄り添って離れない。
今までも厳しい世界で寄り添いながら耐えてきた、生きるも死ぬも最期まで一緒だ。

貧しい少年は運命に翻弄されながらも必死に画家を目指していたが、夢をかけた絵画コンクールに敗れてしまった。
唯一の肉親を失い、仕事を失い、あらぬ冤罪から村八分の状況に追い込まれてしまった。
どこにも行き場を失い、遂には生きる希望さえ見失ってしまったのだった。

最期の力を振り絞って辿り着いた大聖堂。
固く閉ざされているはずの扉が、何故か開け放たれている。
導かれるように立ち入る少年。

建物内は薄暗いが、ずっと憧れていた美しい絵画の数々が飾られているのが見える。
本来であれば、高額な観覧料を支払わなければならないはずだ。
そして中央には、大きな三面パネルに描かれた聖者の絵画。
少年の訪問を待ち受けていたかのように、大きなカーテンまで開かれていた。

「……ああ、なんて素晴らしいんだろう」
痩せた少年は、震えながらも手を合わせ呟く。
「神様、ありがとうございます。……僕は、もう何もいりません」
その場に横たわり、愛犬を抱き寄せる。
「疲れたろう、僕も疲れたんだ。……なんだかとても眠いんだ」
少年はそのまま目を閉じた。

……………………

「ねえ、いくら鍵かかってなくても勝手に入ったら怒られるよ」
「大丈夫だよ。さっき下見に来たけど誰もいなかった」
「……あなたが扉こじ開けたのね」

……かすかに誰かの声がする。
天使でも降りてこようとしているのだろうか。

「うーん、まだ乾いてないから薪の火付が悪いや」
「ねえ、火事になっちゃうってば」
……なんだか騒々しい。このままゆっくり眠らせてほしい。

「もう無理……お腹ペコペコよ」
「そこらの幕とかカーテン、着火剤に使えそう」

……なんだか寒さを感じなくなってきた。いよいよ限界か。
ほのかに暖かい気さえする。まるで焚き火のそばにいるみたいだ。

「もうちょいカーテン欲しいかな」
「これ使うの?危なくない?」
「大丈夫大丈夫、そっち引っ張って」
その直後、ガシャアン!と大きな音が鳴り響いた。
「……ああっ!絵画がっ!!」
「どうすんのよコレ!これじゃ悲劇のヒロインどころか、明日からお尋ね者だわ!」

あまりの騒音、少年は身体を起こし再び目を開くことになった。
そして、眼前に広がる光景に唖然としたのだった。

長年憧れてきた絵画、そのパネルが倒され無惨に砕け散っている。
さらに大聖堂の中心で焚き火を囲み、不審者二人組が肉を焼いているではないか。
「な、何て事してんだあぁぁっ!お前達っ!」

少年は死に瀕していた事も忘れ、冒険者風の男に詰め寄る。
「あ、起こしちゃったかな?ごめんね?」
冒険者はトボけた応対をしながら、バラバラになってしまったパネルを次々と焚き火にくべていく。

「貴重な絵画を!この王国……いや、世界的な損失だよ!しかも屋内で焚き火なんて非常識だっ!」
早口でまくし立てる少年に、もう一人が声をかけてきた。
「……気持ちは分かるわ。でもひとまず食べましょ。あなたも似たような身の上なんでしょう?」
ひどく疲れた表情の少女だった。

「なるほど、ありがたい絵だね。たった一枚で、三人とわんこの命が助かる燃料になっちゃった」
そう言いながら冒険者は、良く焼けた肉を差し出した。
「食べなよ。あれも見事なトレジャーだったけど、キミの命に勝るお宝なんて無いからね」

「……食べられないよ。そんなこと、許されるはずがない!」
うつむく少年に対して、冒険者は更に一言なげかける。
「君の友達は、そうでもないみたいだけど?」

視線の先に目をやると、運命を共にする愛犬は一足先に食事を始めていた。
「…………食べてるよね?」
「………………食べてる」
「…………もりもり食べてるわね」
「おかわり、いるかい?」

少年は小さくため息をつくと、観念して肉を受け取るのだった。

…………………………………

…………………

大雪から逃れ、暖を取り、食事にまでありつく事ができた。
ひとまず生命の危機は脱したと言えそうだ。
「こんなことしてまで生き延びて……これからどうしたら良いんだろう……」
一人頭を抱える少年。
「あなたマジメねえ……誰かさんと違って。でも、あのまま凍えちゃうよりマシだったじゃない」

少年の境遇を聞いた少女は強く共感し、気遣う言葉をかけていた。
彼はどこか私に似ている。何とかして元気づけてやりたい。
可哀想なだけだった私が、何かを変えるためにも、きっと必要なことだ。

冒険家は残りの肉を燻製にする作業を終え、ようやく乾いた荷物を整理している。
「君、絵描きなんだよね?さっきの絵画に負けない傑作を描いてさ、代わりに飾ろうよ」
鞄から絵筆を取り出し提案した。

「いいじゃない、それ。何か描いてみせてよ」少女も賛同する。
「ダメなんだよ。貧しくてちゃんとした画材を使った事がないし、何ヶ月もかけて必死に描いた絵だって落選してしまったんだ。」
少年はどこまでも悲観的だ。
「……今さら何の絵を描いたって、何の価値もないんだよ」
筆を受け取ろうとはせずに黙ってしまった。

しばらく沈黙が続いたが、冒険者は突然立ち上がり二人の前に大きな紙を広げてみせた。
「じゃん!代わりの絵を描いてみたんだけど、どうかな?」
感想を求めてくる。得意げな表情だ。

少年は困惑した表情で少し考えると、ようやく一言だけ呟いた。
「……………焼きおにぎり?」
「いや君の愛犬」
「ヘタクソじゃないの!そんなの置いといたら余計に怒られるわよ!」
「ついでにキミの似顔絵も描いたよ」
「見たくない!そこの焚き火に放り込んでやるから!」

少年は困惑した様子のまま二人の喧嘩を眺めていたが、呆れたように小さな溜め息をつくと、ようやく絵筆を手に取るのだった。

…………………………………

…………………

ほどなくして完成した絵画。

穏やかな表情で微笑む上品な老人、その傍らに座る老犬が繊細なタッチで描かれている。
経験と知性の光を宿した瞳、今にも優しく語りかけてきそうだ。
大型犬の力強い筋肉や、厳しい環境を生き抜く厚い毛並みまで見事に表現されている。

「……すごいじゃない。飾られてた絵に負けてないわよ」
「これ僕に売っておくれよ。所持金ぜんぶ払うから」
「15Gしか持ってないくせに!」
鑑賞する二人は騒がしい。

少年は絵筆を握った自分の手を見つめていた。
もう絵を描くことにも絶望してしまっていたというのに、ひとたび描き始めたら筆が止まらなかった。自分の中で、捨てきれていなかった感情に触れた気がした。

少女が話しかけてきた。
「まだ途方に暮れてるの?こんな才能があるのに」
その声からは少し力強さが伝わってくる。
彼女も辛い境遇にあったはずだが、前向きになるきっかけを掴み始めているようだ。
「少しだけ、明るい未来をイメージさせてあげる」
少女はマッチを一本取り出し、火をつけた。

その瞬間、広がった光景に少年は驚愕した。
「……な、なんだコレは!」
明るく暖かい聖堂内、すべてのランプに火が灯り芸術作品を照らしている。
破れたカーテンも、黒焦げになった大理石の床も、すべて何事もなかった様に美しい。
そして中央のパネルに堂々と展示されているのは、少年が先ほど描いた絵画。
大勢の見物客が作品を見上げ、感嘆の声を上げている。

「……これは夢?魔法?信じられない」
身動きもとれずに呟く少年。
「そう。これは都合の良いまぼろし。でも、きっと現実にできるわよ」
少女がマッチの火を吹き消すと同時に、儚い幻も消えてしまった。

「いやあ驚いた。マッチの火を……錬金術の一種かな?」
冒険者も目を丸くして驚きの声を上げている。
「凍死寸前の中で身に付いたみたい。きっと、おばあちゃんが生きる力をくれたのね」
死の淵から立ち直ったことで、彼女の心身に何らかの変化をもたらしたらしい。
「だから……憐れで可哀想な美少女マッチ売りは今日でおしまい。明日からは美少女魔法使いとして、もっと図太く逞しく生きてやるわ」
さっそく図々しい表現を織り交ぜながら、力強い決意を言葉にした。

「……僕も、諦めてうずくまるのは止めにする。朝になったら、司教様に全部話してお詫びするよ。そして、また一から絵を描くんだ」
少女の言葉に感化されたのか、ようやく絵描きの少年も前向きな言葉を口にしたのだった。

…………………………………

…………………

朝には雪が止み、暖かな陽光が降り注いでいた。
一面に降り積もった雪の粒子は朝日を反射し、街を一層明るく感じさせる。

少年たちが目を覚ました時、既に冒険者は姿を消していた。
「……後始末を放ったらかしにして、自分だけ先に逃げたわね」
不満を口にする少女。
「いいよ。後は僕に任せて、君も……」
言いかけて固まる少年。

「……ぷっ!ふっ!……あははははっ!」
お腹を抱えて笑い転げる少年に、今度は少女の方が困惑した。
「え……どうしたの?急に元気になっちゃって」
まだ顔面の落書きに気づいていない少女は、少し嬉しそうに首をかしげるのだった。

…………………………………

…………………

画家の少年は筆を置くと、大きく伸びをした。
隣の愛犬もつられて伸びをする。

ようやく描き上げることができた。
あの日、焼失してしまった絵画の代わりに展示する作品だ。
疑いもせず話を全てを聞いた司教様は、まず僕の無事を喜んでくれた。
焼損した展示品や焦げた床についても、罰らしい罰もなく、当分のあいだ住み込みで働く事で手打ちとなった。もちろん愛犬も一緒だ。
衣食住が与えられ、賃金で画材まで揃えることができた。
この恩義に報いるため、とにかく懸命に働いて少しでも喜ばれる絵を描きたい。

あの夜、街の人々も僕の事を探してくれていたらしい。知らぬところで冤罪が晴れていたのだ。危うく濡れ衣を着せたまま死に追いやってしまうところだったと、人々は少年の手を握り深く頭を下げたのだった。

たった一晩だ。全てが変わった。
あのまま何も知らずに命を落とし、街の人々が罪悪感を背負い続ける未来もあったのだろうか。
あれほど心を支配していた絶望感は、もはや完全に消え去っていた。

「また傑作が描けたじゃない。祭壇画にするんでしょ?」
マッチを売っていた少女が訪ねてきていた。
その手にはマッチではなく、炎の杖を携えている。

彼女もまた、あの日を境に大きく人生が変わった。
錬金術師としての力に目覚めた彼女は、たちまち頭角を現し、島でも一目置かれる存在となった。世間では“焔の魔女”などと呼ばれているらしい。

「アイツが嗅ぎつけて来るんじゃない?お宝だーっ!なんて言ってさ」
あれから冒険者には会っていない。
今もどこかで、気ままに旅を続けているのだろうか。

少女は炎の杖を握りしめ呟く。
「必ず見つけ出して、丸焼きにしてやるから」
落書きの件は、いまだ根に持っているようだ。

「……見に来てくれるかな」
少年は振り返り、完成した作品を見つめる。
人々を慈しみ施しを与える女神と、笑顔で食卓を囲む子供たちの絵画だ。

本来、大聖堂の祭壇画を見物するのには高額な観覧料が必要となる。
しかし今回、司教様には特別に許可をいただいた。
この祭壇画を公開してから当分の間、観覧料は15Gとなる予定だ。

「いいね!」 2

第9話「生命の灯火」
今回の勝手にテーマ曲は、拝啓、少年よ(Hump Back)

冒険の舞台は童話の中にまで突入:bulb:
前々から干渉したかった悲劇、強引にハッピーエンドにしちゃえ:exclamation:(原作ガチ勢の方々ごめんなさい:sweat_drops:)
あんな話のヒーローに会ったり、こんな話のトレジャーをゲットしてみたり、潜り込んでみたい物語は沢山あるなあ:musical_note:

ここから当分は更新ストップするかも:sweat_drops:
のんびりと次回作をお待ちくださいな:sunny:

さあて、書きかけの物語少しずつ進めながら遊ぶぞ〜:exclamation:

「いいね!」 1

わーい(*^ω^*三*^ω^*)パレットきゅんが動いてるだすよ:sparkles:!!!
うっひょ~~~!!!めっちゃあちこち冒険してるッ!!!
前に見えたものもあるネッ!なっつかしぃ~:sparkles:!!!
そしてやっぱりこうやってみると、作風の経緯が見えてくるネ!!!

……過去よりメンタリティがクリアになってきているせいか、
より「うお~!これ絵描けるんじゃね???」みたいな具合になってる…!ヤッタネッ!!!

ここでちょこっと小話を一つ…:blossom:
これまでに数件程わたすが描いたイメージが引用されていましたが…
(エッヘッヘッヘw あじがどぼございまづだビョ:blossom:

わたすが描いたパレットきゅんの外見イメージ…

めっちゃバラけてねえか???
昔と今で全然違えぞ???


(でも見ようによっては雰囲気の傾向は変わってない感あるケド)

これにはちょっと事情がございまして…
初期はイメージが…ある程度の方針はあれど、
あまり設定されていなかった…んでしたっけね…?なので、
「描き手の自由に委ねられていた」みたいな部分が
今より強かったんですよね、確か。特に初期はッ!
(その時は
『神話生物一つでも、出ている作品によって
姿形が違うみたいな感じで神秘的だなア~』みたいな感じでした( ՞ةڼ◔(

しかし、近年は定まってきて
今の交流BBSのアイコンも割と近年のものだったかな!?
…他、諸々やりとりの上で、
どうも(さっき出したイメージの)右側…が
まあ、今のところ希望に近い形…なのかな?
色々お話をいただいたので、拙者は現在は
右側のイメージで描かせてもらっておりますホハホハホハ(謎擬音)

最初、イメージがあまり見えなかった時は
「盗人(シーフ)」の情報が結構特筆してた気がしたから
「超軽装で超素早いのかな:blossom:?」とか思っておりましたなつかしい…( ˘ω˘ )

そんなワケで、
「どーしてガレットさんが描くパレットきゅんのイメージって
こんなにも違うんだあ~???」という
ちょっとしたお話でしたとさッ:sparkles:!!!

ふふふ、結構前のものなのに!!!
取り上げてくれてありがとうね~~~(*^ω^*三*^ω^*):musical_note:

「いいね!」 1

ガレットさんだ:bulb:
山ほど引用しまくっちゃっててゴメンなさい:dash:
そしてまたステキなイラストまでっ:dash:
ありがとうございますーっ:sunny:

今昔のデザインが並んでいるっ:exclamation::exclamation:
エモい……なんか揺さぶられるモノがある:dash:

いつの間にかシーフ風から冒険者らしく成長していたんだ、みたいな:dash:
(いやホントは何も決めてなかったが正だけど:sweat_drops:)

今もシッカリとは定めてないけど、島外での冒険スタイルとか諸々を含めると、バッチリしっくりくるデザインです:bulb:スゴイなっ:dash:
ガレットさん、コチラより冒険道具屋に詳しいんじゃ……:interrobang:

ああでも、大乱闘MUTOYSブラザーズとかが発売されるなら、是非2Pカラー扱いとかで両方欲しい:dash::dash:

終始モノクロなはずの文章が明るく色付いていく気がする:dash:ひとえに皆様のお陰ですホント:dash:

こうして見ると駆け出し冒険者の頃から皆様のお世話になりっ放しなんだ:sweat_drops::sweat_drops:
何か出来ること無いかな:sweat_drops:うー、何だろう:sweat_drops:
よし、探しに行こう。冒険者なんだからっ:exclamation:

「いいね!」 1

恐れ多くも、こちらの物語のファンアート描かせてもらいました、、!
切ないのにどこか優しく美しく、生きる力強ささえも感じてしまう
そんな雰囲気がすごくすごく好きで。いつまでも愛する人を待ち続ける
青年と、これから思いを運ぶであろう想いの花を表現できていたらうれしいな。
素敵なトレジャーストーリーを共有してくださってありがとうございます!!

「いいね!」 3

木材屋さん:bulb:

ストーリーにステキなアートの投稿:exclamation:
嬉しく恥ずかしく、やっぱり嬉しいぜー:sunny:

少し寂しげに夕焼けを見つめる後ろすがた、そして花や海の美しい色使いが物語の世界にグッと引き入れてくれるんだ:exclamation:

このままスタッフロールが流れて来そう:dash:

ありがとうございますーっ:exclamation:

『トレジャーストーリー打ち切りのお知らせ』

長年のご愛顧ありがとうございました。
『冒険道具屋パレットとステキなトレジャーストーリー』は旧年度をもちまして連載終了となりました。

新年度より新連載『呪具装備の勇者様は手段を選ばない!』をお届けいたします。

全身を呪いの装備で揃えた不屈の勇者による冒険活劇です。どうぞご期待ください!

「いいね!」 5

アイコンが!黒髪赤目の勇者!?
全身を呪具装備!? かっこえええ!!
いったい何をしてしまうんだ勇者様、、!!

思わず目がキラキラしてしまいそうな響き!
レシピイメージ

「いいね!」 1

う、打ち切りのお知らせにイイねがたくさん!?

しかも何だか……凄く、すごくキラッキラされてる!
まさか新連載の方を期待されている!?
今ごろ冒険道具屋は青ざめて震えてるんじゃあないか?
いや、エイプリルフールネタにエイプリルフールで返されたんだ……そうだよな、きっと。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
不屈の勇者とは!
元々は別の世界を救うために生み出された勇者の一人である!だけど世界観的に融通が利きやすいMUTOYS島なら順応できてしまう!?
……という身勝手な都合で逆輸入された、決して単発ネタでは終わらないはずのヒーローなのだ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

資質不足なんてモノは努力とガッツ、狂気じみた覚悟で補ってでも勇者を遂行する!
もちろん全身の呪い装備は副作用だらけだ!
頭痛に幻聴、悪夢で寝不足、冷え性、不運でアイスの当たりも引けない……
オマケに動物には嫌われるし、いつも腹ペコだ!
くっそー、魔王に八つ当たりしてやる!

「いいね!」 3

( ゚д゚)ハッ!
危ない、にじみ出る呪いの影響でこちらも幻覚を見せられていた!?

ステキなトレジャーストーリーは終わりなき物語!
そんな打ち切りなんてある訳ないじゃないですか~ :kotsukotsu_mimi_hoshi_jin:

でもまさかお初にお目にかかる
不屈の勇者さんのプロフィールが見れるとは!
なんてラッキーな日なんだ :roll_eyes:
(追記:魔王との対峙理由が切実なんだけど可愛すぎる!)

逆輸入があるならいつか冒険道具屋さんと
邂逅する日もあるのかもしれない、、!タブン!

「いいね!」 1

そ…そんな…う、打ち切りだなんてー
ぼ、冒険が、つ…続くと思ってたのにー
パレットきゅんも、ど、ど、どっかいっちゃったしー
新連載も気になるけど、どーしちゃったんだろー
た、たいへんだぁ~(

…もうちょっと上手く返したかったけれども難しいw
諸々応援してますねw

「いいね!」 1

せっかくだから、よその世界で戦ってきたパーティーメンバーを一挙公開:sunny:
そのうちストーリー本編にも登場するかも?たぶんね:bulb:

冒険に出たくなったかな?

「いいね!」 4

『ひとときの休息』(超番外編)

参考文章量【短め:約2500字】

dot2025_0218_2018_02

「……その手、離してくれない?」

額にゴーグルの冒険者、毅然とした態度で申し出る。
対する黒髪の冒険者、応じる様子はない。
赤い瞳でギロリと睨む。

「……オレはな、何も持たずに生まれてきた。だから一度掴んだモノは二度と離さないと決めている。救いを求める人の手も、明日に繋がる希望もな」
「……唐揚げ一つに大げさ。僕の胃袋も救いを求めてる、ほら早く助けておくれよ」

冒険者で賑わう大衆食堂。
大皿に残った唐揚げ。最後の一つを巡って仲間同士が争っているようだ。

「あらら、あの二人またケンカしてる。ねえ先生、何とかしてあげて」
新米冒険者の娘は呆れた様子で溜め息をつくと、隣の仲間に仲裁を求めた。

「あんなのはケンカって言わないよ。……少し待っていて」
先生の愛称が良く似合うエルフ族の賢者、食事を中断し慣れた様子で二人の間に入るのだった。
「唐揚げくらいで大騒ぎしないでね。お店にも迷惑だから」
いつもの優しい口調で止めに入る。

「そうだよ、勇者サマが唐揚げ一つでムキになるなんて。ほら手を離してよ」
ゴーグルの冒険者は黒髪の勇者に唐揚げを手離すよう求める。
やはり黒髪勇者は応じない。

「やかましい、そっちこそ手を離せ。オレの方が早かっただろが」
「いいや、僕の方が早かったね。それに君の方が多く食べてる。少しは遠慮しなよ」

再び膠着状態だ。二人とも決して唐揚げを離そうとしない。

「……で、実際どうだったの?見てた?」
エルフの賢者は、もう一人の仲間に意見を求める。

「双方がウソをツイテイマス。手が早カッタのも食ベた量が多いのもアナタの方デスネ」
と速やかに回答し、ゴーグルの冒険者を指し示した。
片言で話す金属製の仲間。魔石の力で動く魔導人形だ。彼に限って記憶違いはあり得ない。

「ほら見ろ、僕の方が早かった」
額にゴーグルの冒険者は勝ち誇った様子で舌を出す。

「お前オレより食ってんのかよ、チビのくせに」
それも即座に訂正される。
「身長もアナタの方が僅かに下回ってイマス」
この魔導人形は、機械仕掛けの精密機器でありながら余計な一言が多い。
案の定、事態は悪化した。

「い……いちいちうるさいんだよ、このポンコツめ!」
黒髪の勇者は激しく苛立っている。

彼の短気は性格によるものばかりではなかった。
一身上の都合により呪いの装備を多数抱える彼には、常時心身に大きな負荷がかかっている。
現在も空腹の症状が出ており、顔色が悪い。

(さっさと手を離したらどうだ、ちびっこ勇者よ)
「……ああもう、幻聴まで鬱陶しい」
これも呪い装備の副作用だ。誰にも聞こえていない幻聴にまで悪態をつく。

「なあ先生、アイツ野菜ぜんぜん食べてない!ほら、つき出しの小鉢も手つかずだ。フェアじゃないぜ」
小皿に残された沢庵を指差し意見を主張する。
「そうだね。バランスよく食べなきゃ身体に良くない。それに彼は呪いの影響で常に飢餓状態なんだ。ここは彼に譲ってあげたらどうかな?」

しかし冒険者は先生の提案を拒絶。そっぽを向いた。
「やだね。早い者勝ちが自然界の掟だよ」
「自然界の掟なら弱肉強食だろがっ!お前ごと喰ってやるぞ!」
勇者は髪を逆立て、今にも噛みつきそうな勢いだ。

エルフの先生は、勇者を制しながら果物の皿を差し出す。
「ほら、お店の迷惑になるから騒がないで。君には僕のデザートあげるから」
「……わかったよ、取引成立。コレは君に譲ることにするよ」
冒険者は少し迷って、果物を受け取った。

「悪いな、先生。カロリーに見合った働きはするぜ。これで世界平和が少し早まった」
機嫌を直した勇者は、唐揚げを受け取ると直ぐに食べ始めた。

「うめえ……ん?なんだコレは?」
唐揚げの味が異質な味に変化した。食感も、まるで唐揚げのモノでは無い。

「不正を検出シマシタ。魔法の絵筆で沢庵を唐揚げに擬態させてイマス」
公正なジャッジメントが速やかに指摘する。魔法道具による強力な錯覚作用だったが、魔導人形には効果がない。

「げ、もうバレた。……君には通用しないんだっけ」
動揺する冒険者、急いで唐揚げを飲み込む。
「またインチキしやがって!よくも塗料なんか食わせやがったな!」
再び冒険者達が騒ぎ始める。

「ほら、お店に迷惑かかるから……」
もはや制止できる状況ではなかった。

「約束どおり譲ってあげたじゃないか。唐揚げなんて一言も言ってないもんね」
余計な挑発をしながら逃げ回る冒険者。

「おのれえ!血祭りにあげてやるぞ!」
禍々しい魔剣を振りかざし追いかける勇者。

「なにそれ!勇者が使う言葉じゃないよ!」
「うるさいうるさい!魔剣のサビにしてやる!」

「周りに迷惑が……」

…………………………………

…………………

「お店やお客さんに迷惑かかるから、騒ぐのはやめようって言ってるよね?」
“先生”の口調は変わらずに穏やかだ。

二人の問題児は床に正座し俯いている。
それぞれの頭には大きなタンコブ。衣服も少し焦げている。
「……正直すまんかった」
「……誠にごめんなさい」

先生の丁寧なご指導を受けながら、勇者は小声で耳打ちする。
「こんなの聞いてられないぜ。なあ、口直しにアレ作ってくれよ、いつもの燻製」
「いいとも。こっそり抜け出して薪を集めに行こうよ。ここの支払いは先生にお任せだ」
「決まりだな。お前の絵筆でさ……」

しかし高性能な魔導人形は不正を聞き逃さない。
「密談を検出シマシタ。再生シマス」
即座にクリアな証拠音声が公開される。

「うげ、やめろよ!」
「……このチクリ魔!」
激しく狼狽し抗議する二人。

「二人とも……僕の話、聞いてなかった?」
背後からの問いかけ。変わらず穏やかな口調だ。
しかし二人は振り向くことも出来ず、ただ青ざめた顔を見合わせるのだった。

「アップデート完了。本気で怒らせてはいけない人物リストを更新シマシタ」

再び大きなカミナリが落とされている。
その様子を静かに眺める新米冒険者。
テーブルには大量のグラスが並んでいる。

「ああ、美味しい。もう一杯おかわり頂戴。……最っ高の肴だわ」
日頃から彼等に振り回されがちな彼女は、満足そうにグラスを傾けるのだった。

「いいね!」 4

外伝の番外編?もう何が何やら:dash:

これにてエイプリルフールのお遊びは閉幕っ:exclamation:
次回はきっと本編の更新です:sunny:たぶんね☆

「いいね!」 1

ば、番外編だー!!
しかも他のキャラたちのプロフィールまで添えられている!?

実は今日ちょっとだけ夜更かししそうになっていたところで
ふらふら~、、っと覗きにきてみたら。とんでもお宝サプライズに
わくわくが止まらない! :star2:

パーティーメンバーが全員超個性派で、
でもどこか親近感の湧いてしまう
くすっと笑えるクセがあるのがたまらなく良い~!!
読んでいる最中思わずツッコミを入れたくなるくらいでした。笑

「ウワバミさんの記憶をなくした理由、お酒原因だったのね!?」とか
「コタツそれはそうだけど!? 危険そうな牢屋指さして
それ真剣に言われたら不意打ちすぎる!」とか!

メビウスさんなんてもろ新聞契約勧誘の魔の手に引っかかってる!?
その数だけでもびっくりなのに、毎日その新聞計60部に
目を通してるあたり、勤勉なのかもったいない精神なのか
はたまたただの娯楽として読んでいるのかわからない感じが
もう愛すべき癒しキャラ :flushed:

零式さん個人的に好み!
堅物とみせて毎朝星占いでラッキーアイテムとか確認しているなんて、、
その姿を想像するともうほっこりしてしまう。
なによりアナログブシドーという響きがたまらない :raised_hands:

いいなーーこのメンバーでどんな冒険をするんだろう。
零式さんタンクだから最前線で攻撃を引き受けて、
パレットくんとアクジキさんがウワバミさんからバフをもらった後に
攻撃を、、すると思いきや
意外と戦闘中なにか言い合ってそうだし、
ヒーラーのメビウスさんそれでヒール量いつもよりマシマシで
労力もマシマシな手厚い後方支援をしているのだろうか、、! :thought_balloon:

そしてさっそく番外編読んじゃいました :raised_hands:
まさかのもう上のパーティーメンバーとコラボしちゃうとは!!
こんなにも早く読めるとは夢にも思わず、テンション爆上がりです!

もう今回もとにかく面白かったし、
最後まで軽快なテンポに夢中になって
すらすらーっと楽しく読み進めていたら
時間が経つのもあっという間でした! :kotsukotsu_mimi_hoshi_jin:
【追記:最近元気が足りてなかったので新作が読めて
本当にうれしかったです!ちょっとだけ温かい気持ちになって元気が出ました!】

そしてでた唐揚げ戦争!最後の1つは罪深い~!

こういうわちゃわちゃした雰囲気のやり取り
とっても好きなので読めて嬉しいなぁ。
パレットくんが一枚上手だったけど零式さんの
検知速度と精度には敵わないんですね。笑

パレットくんとアクジキさんは悪友のような雰囲気があって、
ケンカも多そうだけどその分意気投合したら
とことん一緒に楽しんでそうなの良い!実は仲良しさんなんだな~

そしてそれをまとめようとするメビウスさんの
お怒りを買うまでがきっと流れなんだろう。笑

そこからのラストのウワバミさんの酒豪っぷりに
「やっぱり飲んでた~~!」ってもう、嬉しくなっちゃった!
記憶喪失後も健在でお酒大好きお姉さんやりますねぇ!

「いいね!」 1

木材屋さん:bulb:
あたたかいコメントありがとうございます〜:sunny:
何かを作ってて、これほど嬉しい事ってあるだろうか:exclamation:つい今回も読み返しちゃった:sunny:
こちらこそ元気をもらっちゃったみたい:dash:

彼らは結構付き合いが長くて愛着も湧いてるので、脇役とかでも今後ちょこちょこ出演するかも??
探してみてくださいな:bulb:
(できれば全員で冒険させたり、SF担当とかミステリ担当とか個別シリーズ持たせて主演させたいけど、ちゃんとMUTOYS島の雰囲気に合わせられるかは要検討:sweat_drops:)

この超番外編は前々から隠し持っていたモノで、新作には数えておりません:bulb:
(元々リリースするつもり無かったんだけど勢いで出荷しちゃった:sweat_drops:)

おかげさまで書きたいエネルギーが湧いてきたぜー:sunny:

「いいね!」 1