画廊喫茶ステラ ![]()
――衣替え騒動編――
帳簿を見つめたまま、画商あお山羊は深いため息をついた。
「御坊ちゃま、それは“新しい季節感”を表現するためには、やむを得ない経費でございます」
と、執事セバスチャン小金井が、カップに琥珀色の紅茶を注ぎながら言う。
「やむを得ない、じゃないよセバスチャン。春に“風薫る青空パフェ”、夏に“灼熱の海辺カプチーノ”、秋に“紅葉舞うモンブランアート”、冬は“雪の天使ミルク”……どれも名前が長いのだ!」
厨房の奥から、金属音が鳴り響く。
「新メニュー、できません!!!」
顔も見えぬまま、美少女シェフ(兼・画家のたまご)の悲鳴が飛んだ。
セハス(通称まゆげ)が「ワン」と短く吠える。
彼は犬であるが、厨房の主張には常に同調する。
その時、扉のベルが鳴った。
「おや、初恋のおねぇさん……!今日も麗しゅうございます」
あお山羊の顔が一瞬でバラ色に染まる。
「ごきげんよう。今日の展示は“赤字の風景”かしら?」とおねぇさん。
「……それは、現実写生です」
セバスチャンが静かに答えた。
続いて、旅人の絵描き青年がスケッチブックを抱えて入ってきた。
「ここの空気、絵になりますね。なんというか、“混沌の中の調和”……」
厨房から「うるさい!調和どころか崩壊中よ!」と鍋を叩く音。
最後に、木こり妹が大斧を肩にかけて登場した。
「伐採依頼聞いた!ここに“無駄に派手な装飾”があるって!」
「それ、展示作品だからぁぁぁぁ!」
あお山羊が悲鳴を上げる。
セハスがまた「ワン」と鳴いた。
店の中に漂う紅茶の香りと、画布の匂い。
――誰もがそれぞれの「芸術」と「生活費」の狭間で生きている。
その夜。
“画廊喫茶ステラ”の黒板メニューには、チョークでこう書かれていた。
『本日のおすすめ:現実逃避ブレンド(経費に優しくありません)』