『秘薬の材料』

美しい街並み。富裕層が多い地域なのだろうか。その中でも一際目立つ立派な屋敷があった。
その中に、富裕層とはかけ離れた風貌の青年が一人。薄汚れた服にボサボサの髪、冒険者のようだ。少しとがった耳を指でいじりながらメモを眺めている。
「わかったよ、コレを集めてくれば良いんだね?」
向かいに座る老人に声をかけた。
「左様、究極の秘薬ナンプンヘマチョを作るのに必要なのじゃ」
屋敷の主、いかにも仙人といった風貌の老人が応える。
「報酬は調合した秘薬を一瓶、そなたに授けるものとする。採取には大きな危険が伴うじゃろう、心して行くがよい」
冒険者は自信に満ち溢れた瞳を輝かせ、力強く応えるのだった。
「大丈夫、冒険なら任せておきなよ!」
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「ここがヒョモヌ川、たしか必要なのはフォヨーヨォヌ魚が3匹。なんだかヘンな名前」
川辺に佇む冒険者が一人、メモを片手に川を眺めている。流れは然程早くないようだ。
「モンスターの気配もしないし、こりゃあ楽勝かな」
そんな時、近隣住民が声をかけてきた。
「坊主、フォヨーヨォヌ魚を釣りたいなら専用の釣り竿が必要だ。たったの5,000Gで譲ってやるぞ」
商人の集うMUTOYS島、珍しい話ではない。
しかし冒険者は相手にしない。
「釣り竿?いらないよ、ちっこい魚の3匹くらい。ちょっと潜って取ってくるから」
泳ぎに自信があるらしく、手荷物を置くと川に飛び込んでしまった。
「うわあああああっ!」
ところがすぐに冒険者の悲鳴が響きわたった。慌てふためき、必死にもがいている。
「なんだコレ!し、沈んでしまうっ!助けてえ〜っ!」
やっとの思いで岸まで戻ってきたが、その全身にはドロドロとした粘液がまとわりついていた。
「この川の水、すごいドロドロなんだ……。これじゃマトモに泳げっこないや」
「そうだろう、ヒョモヌ川の水は島一番の粘度だからな。中に入れば動けないし、並の疑似餌じゃ沈みもしない」
住民は再び釣り竿を取り出した。
「……わかったよ、買うよ。もうちょっと安くならない?」
冒険者はしかたなく、重い疑似餌の付いた専用釣り竿を購入したのだった。
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「次は、メヂュポニチ丘のポポチの実が1つ」
少しくたびれた様子の冒険者、今度は丘にやってきていた。
髪や衣服にはドロドロ粘液が取りきれず残っている。
上を見上げると、高い木の先に大きな実がついているのが見える。
またしても近隣住民が声をかけてくる。
「あら、ポポチの実が必要なら専用の長尺網が必須よ。8,000Gでどうかしら」
「なあに、あの程度の高さ、何てことはないよ。僕は山育ちで木登り得意だからね」
身軽な冒険者は得意げな様子でスルスルと木を登ってゆく。
「うわあああああっ!」
しかし冒険者は直ぐに落下してきてしまった。
「……なんだコレ、樹液がヌルヌルしてる!実も!すごく滑るっ!」
冒険者にはドロドロに加えてヌルヌルの樹液まで付着してしまった。
「ああもう……分かったよ。その網を売っておくれよ」
冒険者は渋々、代金を支払うのだった。
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「ヌッチョリウス山のペチョチョダケを5つ!」
ドロドロでヌルヌルの冒険者、今度は山の中で最後の材料を探していた。
やはり近隣住民が声をかけてくる。
「兄ちゃん、ペチョチョダケの採取には専用の……」
「いらないってば!」
冒険者はピシャリと遮る。
「もうパターンは掴めたよ。ベトベトだろうがペチョペチョだろうが、地面に生えてるキノコなんて簡単さ!」
そう言うと、冒険者は颯爽と駆け出して行くのだった。
「うわあああああっ!」
しかし、間もなく冒険者は絶叫しながら逃げ戻ってきた。
頭にキノコをはやした巨大ゴリラの集団に追われている。
「何コレ聞いてないっ!何が要るの!?専用の何が要るの!?」
「話を聞かない兄ちゃん。ヌッチョリマウンテンゴリラを眠らせるゴリスヤァの花粉、16,000Gでどうだい?」
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美しい街並みの中の立派な屋敷。
「いてて……ひどい目にあった」
ドロドロでヌルヌルの頭に、大きなタンコブまで乗せた冒険者が戻ってきた。
「だいぶ経費がかさんだけど、ようやく材料が全部揃った」
仙人の待つ部屋に向かう。
すると先客が居ることに気がついた。
青い帽子に作業着の青年。何かの職人だろうか。
そして、その帽子や作業着は同じようにドロドロとヌルヌルにまみれている。
どうやら仙人は、他にも多くの人に秘薬の材料を依頼していたようだ。
「キミも材料を揃えてきたのかな?大変だったでしょ?」
彼の横に並び、入手した材料を納品する。
「うむ、よくぞ戻った。ちょうど秘薬を調合し終えたところじゃ。一瓶ずつ持ってゆくが良い」
二人は琥珀色の液体が入った小瓶を受け取る。
「この秘薬、ナンプンヘマチョだっけ?どんな効果があるの?」
冒険者は今更な疑問を口にする。
「ふむ……よろしい。二人共、それを自らの頭にかけてみるのじゃ」
「………????」
わけがわからないまま仙人の指示に従う二人。
すると、さっそく効果が現れた。二人の頭に付着したドロドロやヌルヌルが見事に溶け出しはじめるのだった。
「す、すごい効き目だ!」
「あんなにガンコだったドロドロがっ!」
大喜びで歓声をあげる二人。
……しかし、それ以上は何も起こらなかった。
「……って、ハアアアァっ!?あンだけ苦労して得た成果コレだけええぇっ!?」
怒りをあらわに絶叫する青帽子。
その横で冒険者は一言呟く。
「……微妙に取りきれて無いんだけど?」
「ふむ、ならば二瓶目は50,000Gじゃ」
……この街が裕福な理由が分かった気がした。
そして、……この立派な御屋敷も。
二人は顔を見合わせ小さくため息をつくと、声を揃えて叫ぶのだった。
「二度と来ないからなっ!こんな街っ!!」
完
